観たわ
走って帰ったよ
なんとか間に合ったことを喜びたい
これで、オレの心も、清らかだ
何故泣いたかわからないとインタビューで言っている姿をみて
そんなはずがあるのかと
一体何が彼女をそうさせているのかと
ふと思い浮かべたら
うれしくてとか、ほっとしてとか、よかったとか、いろいろあるだろうに
そう言わせない
尋常ならざるなにかをかいまみたきがして
ああ、自然と涙が
キムヨナ、金メダルおめでとう
はじめてロクサーヌを観たとき、
オレは時代に感謝した
若さがとおざけていた偏見から目をさましたとき
自分に失望し、時代をにくんだ
あれほどの光には二度とであえないのだろうと心の何処かで思っていた
そこへ彼女が流れて、そして、すぎていった
次に訪れたのは感謝だった
その当時は浅田真央をみてもなんとも思わなかったが
後に代々木体育館で出会った彼女は圧倒的だった
キムヨナのシェヘラザードを薄っぺらい何かと錯覚するほどだった
またそれ以外のすべての人たち
まるでくすんでいると考えていた
傲慢なオレの魂が、はじめて思うことを試み、やがて
くすんでいたのはオレの魂だったと知った
そしてこのときまでオレは、フィギュアスケートが好きだとはまったく思っていなかった
いくつかの光が心を震わせてくれる
涙を流せる何かを探していただけだった
それでも今日が終わって、認めざるをえない
完全にみせられている
生命への感謝が五輪にまで、すこし、届いた
はじめて、その瞬間を生きている
オレはときに、彼女が背負っているものの重さについて、少し思い浮かべてみる
どれほどのものか想像がつかない
20歳にも満たない女性が背負えるものだろうかと
そんな言葉が空っぽに思えるほど、
言葉に詰まる
なんと言って良いのかわからない
国民性や歴史が課す重圧を、本人は感じることはないと言う
オレはそれを信じない
彼女だけに限らない
インタビューに応じるあらゆる言葉も鵜呑みにはしていない
失敗や、敗北が、不安にならないはずがない
気にならない、自分のできることをやるだけ、自信があるから
それらすべての言葉と事実とは別のところで、
それらすべて覚悟しているのだろうだと感じている
彼女たちはただ、それを知っているだけで
その上で悔しいし、嬉しいし、涙を流すのだろう
オレが何より嬉しいのは、
去年の終わりまで、五輪にでられるかどうかということすら疑っていた、浅田真央
彼女が、この舞台に、あるべき姿で、皆の希望を背負ってあがってきてくれたことだった
去年、はじめてプログラムを観たときは、これで大丈夫なのかと不安にも思った
フランス杯から、キムヨナとの差はひらくばかりだった
せっかくのグランプリファイナルにもあがってくることはなかったが、
その数週間後には全日本で希望をみせてくれた
そして、その彼女が、それ以上の姿で、最大の舞台に立ったこと
本来の彼女の姿で、迎え、たどりつき、成し遂げたことだった
何よりも嬉しかった
会社でパソコンから文字だけの世界を眺めながら心の躍動を感じながら
つぎに待つキムヨナの心を、ほんのすこしだけ思い浮かべて、天井を見上げたよ
そして息をとめた
1分間、
息をとめて、荒々しく空気を吸い込みながら
どうにか心の平衡を保ったよ
もう駄目かもしれないと思ったのを覚えている
そしてその後、彼女のパーフェクトを知った
信じられなかった
いままで一度も完璧に成し遂げたことはないはずだった
それが崖のふちから這い上がってきた浅田真央と同様に
前を走っていながら彼女は、より前へ、前へ、そしてその先で仕上げてきた
そして今日、
キムヨナからはじまり、
浅田真央につづく、おおくの人々の思いと願いを巻き込んだ
運命の、4分間が、二つ
もう、何に勝ったのか、この期に及んで、
事実が目の前にあるのに、理解だけが及ばない
点数ももはや問題ではない
克己
己に克つ
一体何故、ここぞのこの場面で、頂点を示すことができるのか
愛されている
そして理解した
彼女はここで完璧になるためのことをやってきた
粒度を高め、精度を高め、安定も視野にいれた
彼女だけの上半身、手首が、肘が、腰が
隙のない表情
女王の背中
これ程の点数がなくても彼女は金だっただろう
彼女への個人的な応援は別として、
彼女の克己と、ここにきていよいよ辿りついた完全
なんにもいえやしない
だから周りで、
ここまで辿りついた浅田真央と、それを乗り越えたキムヨナを終えて、
競技としての真偽を疑う声が哀しかった
4回転やトリプルアクセルの点数がもう少し高かったならと
採点方式が違ったならばとは、
芸術とスポーツの傾きに疑問を呈する
とてもオレには同じように思えない
もし、より浅田真央やロシェットが、かがやくルールであったのなら
彼女たちがいまよりかがやくであろうと願うと同様に
その他のいずれもそれにあわせてかがやこうとするに違いない
誰かを応援する気持ちが誰かを妨げるようにきこえて哀しかった
それには充分な理由がある
また、首を傾げているわけでも、否定しているわけでもないと知っている
人の願いに違いない
しかしそれが外からの声であれば軽く笑ってすますような
かつてのWBCやワールドカップ、果ては政治にも及ぶ海外からの声が、
成る程、これが縮図かとおもうと、あらゆる研鑽が軽んじられているに思え、哀しい
しかしそれもまた、オレの願いに他ならないのだろうと、反省したよ
たとえば仮に囁かれているような陰謀が確かなものだったとしても
彼女は間違いなくこの五輪で頂点にふさわしいことを成し遂げ、
定められたルールの中で、そうなるべく徹底してきたに違いない
それでも一つのミスにより、どちらが上に立っていてもおかしくない状況で、
ましてやいつしか追われる立場になりながら、追い上げてくる確かな存在がある
それでも彼女は、その中で、自身の最大を成した
オレにはそれが想像を遥かにこえる現実に思えて仕方がない
ここにきて頂をみせた浅田真央
それを乗り越えたキムヨナ
そしてロシェットに涙する以外にあるはずがない
キムヨナ
滑り終えた彼女のあんな表情はみたことがない
あれは喜びより安心にみえる
重圧を苦にしない女性があんな顔をするだろうか
何かに応えることができ、安心を傍においた
そういう涙だったということにしておくよ
三人ともおめでとう