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打ち下ろすハンマアの音を聴け
 

 

 
 

のみこまれないよう
しがみついている、確かに思えたものは、
思いのほか、うつろっていて


ときに、嘆いてみたり、したくなるかもしれない


あれもちがう、これもちがうって、諦めを待っているように見えるよ

先週からずっと、オレを派遣している会社の社長に、連絡をしていて


それは、
先月の、給与が入っていないし、
2月末で、今の現場の契約も切れるし、
3月から、こっちにこい、うちにきてなんて誘いの声もあったり
色々な理由があって、それでも
でやしないから、心配しながら、他の人からくる催促の声には
不安を与えないよう、誤魔化しながら、すごしていたら
今日ようやく連絡がとれて、
会社を整理することになったとか、なんとか


詐欺にあったんだって


彼はごめんねって言ってたよ


たった一度の人生で、
給与の未払いが、三回目って
神様に、もし会えたのなら、かける言葉は決まったよ


ロレックス何本買えてる?


わかっていたことだけど、
色々と、運がないから、動揺も焦りもしないけど
いつ切れてもおかしくない、糸の上で、なんとか保っているんだな


より大きな不幸を前にして、自分を慰めるようなことが、できたなら


かつて、あまりの絶望と自分への失望から、
ほんの少し
自分を哀れんでしまったとき


あいた穴は、


二度とふさがらないことを、知っている


もし、少しでも、
自分を哀れんでしまったのなら、
どうなるか、オレは知っている


まっくらな、それを、みつめているとのみこまれそうになって
力いっぱい、振り払うと、
なんだか自分が浅ましく思えてきて
抵抗することが、どこかみにくいように
思えてしまったり、するんだよ


そうこうしてくると、
昨日、
買ったばかりの傘が、帰る頃には傘立てから、盗まれていたことや
まあ、自転車が撤去されてたりとか、
電車で、座ろうと思ったら、強引にとられたりとか、
どうでもいいことまでが、重みをもってきて、


一体何が、大切なことで、
一体何が、オレを苦しめて
一体何が、オレを救えるのか


まったくもってわからなくなって


誰も、なんにもできないということだけ、わかっている
我を忘れて、取り乱せたら、楽だったにちがいない
いっそ壊れてしまえたならと思いながら、それが無理だと知っている


なにも、聴きたい声は、そんなに多いわけじゃない


そして、聴きたい声は、決して届かないことを、知っている


誰の声も、届かないことを、知っている


こうして、また一つ、つまらない人間になっていくことも知っている
オレはただ、この小さな男を幸せにしてあげたい
いつの日か言ってやりたい


もうけつしてさびしくはない


なんべんさびしくないと云つたとこで
またさびしくなるのはきまつてゐる
けれどもここはこれでいいのだ
すべてさびしさと悲傷とを焚いて
ひとはとうめいな軌道をすすむ


-宮沢賢治

 


 


 
 

 

 

 

 


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