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佇む女王

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偉人英雄に、われら月並みなる
人間の顔をみつけて喜ぶ趣味が僕にはわからない。
リアリズムの仮面をかぶった感傷癖に過ぎないのである


あらゆる思想は、実生活から生まれる。
しかし生まれて育った思想が、ついに実生活に決別するときが来なかったならば、
およそ思想というものになんの力があるか


 


 

これは、妻を恐れて家出をし
挙げ句、田舎の停車場で、死を迎えた
トルストイについて


人類の救済を説いた男の最期にしては、
悲壮であり、滑稽でもあり、
まるで人生の真相をみるようだと書いた文壇の人間に対する


小林秀雄の言葉
 

いわく


大天才がその一生をかけた、苦しみを通して獲得した
これが人生だと示してくれた思想は、
到底凡人の獲得できるものではない
せっかくのそういう思想を棚上げし、
天才の一生を凡人のレベルに引きおろして何になると彼は言った


これはとても好きな考え方で、
評価の基準をもたない、思索という、その一点に於いて
実生活を越えたところで彼に尊敬を与え


尊敬が彼を動かした


そう
尊敬としか言いようのない感情を、誰かに対して抱いている
そんな瞬間は、簡単には訪れない


またそれは、20も歳上である大先輩の考えに対して
彼が真っ向から、反発した結果であること
また、それを見事的確にいいあらわしていること


これもまた喜ばしい点で、
一方通行の発信にすぎず流されていてもよかった一つの覚悟に
相応の覚悟をもって、否を唱えたこと


お礼を言いたいくらいだ


何故こんな話を思い出したのかと言えば
それは勿論
キムヨナのため


二日間の競技と三日目のエキシビジョンでは
三日目がもう、群を抜いて心にきた
それは勿論、内容の良し悪しでもあれば
これが最期だという思いからくるものもあって
不思議なことに選手の表情が生きていることに喜びを感じる


それはもう、遠い昔に消えていた感情を引き出されたような思いだ


かつて持っていたであろう
こんな当たり前の気持ちを、この目で直接眺めて
思い出した


彼らの努力と、その結実を
競技が終わって尚、魅せようとする精神に
その笑顔に、安心に、演技に、


心は震える


それは彼らからの贈り物
彼らなくしては決して訪れることはなかったであろう
感動


その震えは
拍手することすら難しい
手をあわせ、身体を動かし、その振動で
この贈り物を壊してしまわぬよう
精一杯なのだ


不思議と口はあいたままで
脱力のきわみにありながら
この贈り物に身を任せる


身体から血とは違うものが
上から下に
降りていく感覚


それでもどうにか、こちらも、感謝をあらわしたい
狭間で揺れながら
どうにか手を叩く


感謝と感動を選択するしあわせ


そして世の中にはまだまだそういう経験が残されていると思うと、
残酷だった世界の広さが
希望のように思えてくる


演技の素晴らしさは勿論
彼らがそこに辿りつくまでに費やした努力
また、その努力が報われず舞台に立てなかった人々


いま抱えている、そして乗り越えてきた
プレッシャーを少し想像しては、こちらが倒れてしまいそう
そしてそれら
多くの努力と才能の体現を前にしても、
やはり彼女の姿勢は際立っている


いま、一体、何を思っているのだろう


微塵もわからず悔しさのあまり、自分を責めたい


しかし
この写真
試合前に佇む彼女を見つけて、


ああ


オレが観ていたのは、
商品ではないんだなぁと
サービスではないんだなぁと
わかっていた筈のことなのに
何にもわかっていなかったんだなぁと


美しく完成されたアクセサリーでもないし
計算し尽くされた建造物でもない
涙を誘うメロディーでもなければ、心を洗う絵画でもない


アンナ・カレーニナのような小説でもない


血が通っている


偉大なる大天才もまた
研鑽された努力家もまた
その両方を兼ね備えた奇跡もまた


オレたちと変わらず、実生活と共に在るのだから


 

 

 

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