トップページ > Crypin Story > おくりびと第一話:何が彼らを集わせるのか
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たった一つの石ころを、宝石にかえる魔法がある
それは思い出
僕が幸福なのは、それを知っているから
僕が誰かのためにできるのは、その魔法を使うこと
新しいチャプターへと
進もうとしている、友がいる
彼はただ、去るだけでいい
ほんの少しだけ、心をこめて皆に別れを告げ、去るだけでいい
そして僕たち24名は、そこに思い出を添えるだけ
それがいい、それが一番、いい



ある朝、Worldxは、探していた
長野旅行、日比谷公園、信長
そんな瑣末なことに、心を捉われているから
見失う
だいじなこと・・・!
1週間後に控えた、おくりびと
誰が参加するのか、人数は何人になるのか、すべてはっきりしていた
にも関わらず、一体何処で開催すべきなのか
決めかねていた
焦りと、無事うまくいくのだろうかと不安に怯えるきもちとが、混ざり合い
友をおくると誓いながらも、思い描いた未来を歩めていない現実に、溺れていた
「所詮、しんやに対するオレの気持ちなんてそんなものなんだ」
自暴自棄になっていた、そのとき
 
窓の外を見つけると、一冊のノートが落ちていた
「PES NOTE」
「直訳で、筋肉のノート・・・」
「『これはぺすののーとです』・・・ぷっ、なんだこれ」
「『つかいかた』・・・全部平仮名か、面倒だな」
「『こののーとにかかれたひとはきんにくになる』」
「ははは」
「ったく病んでるな、なんで皆こういうの好きかな」
「不幸の手紙から全然進歩しちゃいない」
「って、なにマジに考えてるんだか、しんやさんの為にお店を探さなきゃ」
彼は、我に返り
すぐさま、前もってリストにあげておいた店舗へと
手当たり次第、さぐってみた
「この地球上でもっとも自由な20名を迎える覚悟はあるか?」
「あなたたちの店までは、どこまでいける?」
「しんやさんを、知っているか?」
自分たちの可能性を満たすだけの器をもったお店を探していたが
「すみません、お客様、そういったことはうけつけておりませんので・・・」
「そのようなことは他のお客様のご迷惑になりますので・・・」
「急用を思い出したので失礼します」
まったく、どの店も、応えは変わらない
僕たちが求めているようなニーズ、時代が追いついていないのか?
チクショウ、最期の一件か
SHIDAX
「ここはもう落とせない、直接出向いて懇願してみるか」
彼はバッグを片手に渋谷へ向かい、店の前に立った
フロントまで辿りつくと、彼は一方的に、求めている条件を、極めて簡潔に述べた
「25名が部屋に入り、帰り際に一人がブルーマンになっていても何も言わないでくれ」
主任:マツムラと書いた名札をつけた女性は、
事の次第はのみこめたが、これは・・・なにかまずい
そう感じているのも明らかな、弱々しい声で、天を仰いだ
そうして、少々お待ちください、そう言って何処かへと電話を掛けた
上にきくのか?何処まで可能か?
しかし彼女が話している様子をみていると、まったく彼が述べた条件を伝えられていないようだ
「まったく・・・」
「こうなってくると、どいつもこいつも」
「筋肉になったほうが、世の中の為になるような奴ばかりに思えてくる」
彼は小声ながら呟いた
主任:マツムラは、まだ話している
彼の耳に入るすべての音が通り過ぎていった
「ですから、えーっとブルーマンが、ブルーマンが帰り際に」
そのとき、バッグに入っているノートを思い出した
彼はおもむろにそれを取り出し
『しだっくまつむら』と書いた
「どうなる?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「ですから、ブルーマンがかえり・・・あ」
「ッパッパラパーーー」
「まちゅぴちゅぶちゅかちゅぺちゅぺちゅぺちゅぺちゅ@@@ぴかちゅうはいちゅうちゅーぺっと」
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「き・・・きまりだ・・・」
「PES NOTE・・・」
「本物・・・!!!!!」
  
彼は少し顔を綻ばせながらも
自らの任務を忘れていなかった
動く肉に成り下がった主任:マツムラに
すべての要求に対して、首を縦にふらせた
彼女は明らかに、筋肉の第一症状イエスマン状態だった
 
Worldxは、満足だった
「これならできる・・・」
描いた希望を形に成せる、可能性を掴んだ瞬間だった
あとはただ、当日を待つだけ
月日の流れははやいものである
当日を待ち望む乾いた心が、その日の訪れを遅らせるかとも思ったが
いくらそのことだけを考えても、時はただ、過ぎていった
Worldxは、幸福であった
当日を待つだけの一週間は、
彼の心の一分間に過ぎなかった
この幸福な別れを迎えるにあたり
彼に、誤算があったとすれば、一つ
心にその日を描いたのは、彼だけではなかった
彼は、彼だけが、その日を彩る術を悩み、導き、成せると思っていたが、それは違った
 
当日、19時集合にも関わらず、昼過ぎには集まったモノたちがいる
まずは、ぺす
昼過ぎまで仕事に追われながらも、その区切りと同時に
横浜を飛び出し、気付けばWorldxの家へ向かっていた
彼は後にこう語っている
「細胞が、震えたのだ」
人は、あまりに高い壁にとぶちあたると、取る回路は一つである
「尊敬」
例外なく、尊敬し、自分にはたどり着けないその境地を
より崇高なモノにしようと試みる
しかし彼は違った、いや、正確には・・・
尊敬の先を切り開いた
しんやという平成を代表する大きな岩を前にし、その大自然に圧倒され、尊敬しながらも
そこで終わらなかった
彼は、彼だけは、追いつこうと努めた、凡人には耐え難い日々を積み重ね
しんやに、少しでも、少しでも近づきたい
そう願い、実践した人である
つまり、そんな彼にとって、この日は、その頂を見据え・・・
ともかく、彼は、同じく昼過ぎには現地へと導かれていたWorldxと顔をあわせるや、空を見上げ
口を開いた
「死ぬにはいい日だ」
不意のセリフから、Worldxは可能性をめぐらせた
「何を・・・言っている・・・?」
ぺすは続けた
「オレはこの日を待っていたんだ」
「横浜で放っておいても死んでゆくシニアたちを」
「ただ守っていくだけだった生活から」
「あの日、沖縄で、目を覚まさせてくれた、救い出してくれた、教えてくれた」
「しんや・・・彼の本気がみれる今日という日を、待っていた」
「ずっと待っていた」
そう言って空を見上げた
・・・こいつ・・・何を言っている・・・
・・・はっ・・・
・・・まさか・・・
・・・間違いない・・・ぺす・・・
・・・挑む気だ・・・!
・・・こいつは・・・なんてこった・・・
・・・しんや越えに挑む気だ・・・
・・・再び・・・そうか・・・この日を待っていたんだ、こいつは・・・
「ぺ、ぺすさん・・・」
「あんた・・・もしかして・・・」
虚ろな目から、断固たる意志を秘めた瞳にかえながら、彼は言った
「使わせてもらうよ」
「レーザーレーサー」
「今度はフルパワーだ」
・・・なんてことだ・・・
「だ、駄目だ・・・!」
「ぺすさん・・・今更しんやさんの実力を疑うわけじゃないが・・・」
「あんたが・・・あんたがそれをきてしまったら・・・」
「今日と言う日はただじゃ済まない・・・!」
「あんただってそんなことわかってるはずだ!」
「今日という日だけは、万が一が起きちゃいけないんだ!」
「万が一、主賓のしんや以上だなんてことがおきたら・・・全て水泡に・・・」
「静かに且つ大胆に、そして『確実』におくる!これが今日という日で一番大切なことだ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「フン・・・」
「そう騒ぐな、Worldx」
「人生とは・・・常に」
「挑戦と、達成の連続だ」
「半年前、彼はオレの壁となった、今度はオレが、彼の壁で在りたい」
「やるよ、オレは」
「レーザーレーサー」
そういっておもむろに彼は、上着を脱いだ
・・・既に・・・完成している・・・
 
ほぼ同時刻・・・
JR渋谷駅に、降り立つ
一人の男
サングラスに隠れた目元は、本能に導かれるままに辿りついたこの地を踏み
その確かな予感に、微笑した
彼の名は木下英士、またの名を箕輪さん
彼が今日という日に課した一つの行為
おくられるべき人を、無事おくるということ
彼のプランに、行動に、迷いはなかった
彼は、たどり着くと同時に、行くべき店へと足を運び、必要なモノを手に入れた
ロープ、ブルーシート、ハンカチ
それらを抱え歩いていると
偶然を装った必然が、この3人を引き合わせた
おくりびと開始3時間前の話である
 
彼は、ぺすを一目みて言った
「完成しているようだな」
「お前が・・・何を考えているかは大体わかっている」
「ともかく私は・・・公正な・・・勝負を取り仕切る、それだけだ」
・・・今日と言う日は・・・いったい、どうなるんだ・・・
彼らは、沈黙とともに、はじまりの刻をただ、ただひたすらに待っていた
Worldxは考えた
この日を待ち望みながら過ごした1週間もの時は、
まるで川の流れのようになだらかに、美しく、そしてはやく、過ぎ去っていった
しかし今のこの状況といったら、巨大なダムのごとく
人工的で、無機質に、時間を包み込みながら、一向に進む気配がない、刻
いったいいつになれば開始するのかと、
心臓が次第に小さくなっていくさまに吐き気すら感じながら
道を眺めていると
・・・いた・・・!
鎮目裕史
通称、しんや
今地球上でもっとも江頭2:50に近い漢
その人生に、新たなページを切り開こうとしている漢・・・!
満を持しておくられようとしている・・・彼が、歩いていた
時間には未だ早い
遠目からみても、わかった
彼の身体中からもまた、やはりというべきか、決心が漂っていた
ともかく思いがけなく彼の存在に気付いたWorldxは、
ぺすと箕輪さんに、伝えようと振り向いた、刹那
箕輪さんが立ち上がった
「時間だ」
・・・時間・・・?
・・・時間にはまだ1時間を残している・・・
・・・どういうことだ・・・
・・・ま、まさか・・・
・・・箕輪・・・この男・・・
・・・その手に抱えているそれは・・・
・・・明らかに場違いなそれは・・・
・・・全て・・・計画していたことだったのか・・・!
・・・しんやさんと・・・箕輪さん・・・この二人は・・・
・・・今わかった・・・申し合わせていた・・・!
Worldxに、このときはじめて芽生えた、この疑いは
遠からず、近からず
予定より1時間はやく渋谷の街を歩いているしんやと、
全く理解の範疇から離れたモノを片手に持ちながら、何故かいま彼の目の前にいる箕輪
この二人の目的が、同じところに向かっているという点以外は・・・
全くはずれていたのだった
実際のところ
箕輪・・・・つまり木下英士は、
人が無意識のうち、引力によって地球へと引っ張られているのと同様に
何か彼自身にも思いもよらぬ力によって、渋谷へと導かれ
その理解の及びようのない品々・・・ブルーシート・・・ロープ・・・ハンカチを購入し
Worldxやぺすと共に時を過ごしているのだった
 
そして
しんや、今日という日の発端となったこの男も、同様だった
意識などという、不確かなモノは何ら介在しない、
実に自然的な力によって、動かされていた
この時間、このタイミングで、渋谷のこの場所へと辿りつき
箕輪さん、そしてWorldxに発見され
ぺすを横目にやりながら
歩み寄ってくる、箕輪さんを見据えて、口をひらくのだ
「はじめよう、ひつようなものを、もってきた」
 
箕輪さんと、しんやは、ようやく意味がつかめたかのように目をあわせていた
ぺすは、空を見上げていた
Worldxは、目の前の光景、この流れに何かしらの理論、意味で一本の線にしようと苦心していた
  
おくりびと、開始、1時間前のことである
 
つづく
 
 
  


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