運命の歩が刻んだ跡は思い出である
1983年の春
一人の男児の生命が、地上に生まれ落ちた
天より地に落ち、命となり
人としての生がはじまり
運ばれていった
他の数多の生命が、まったくおなじように始まりのときを迎える中で
彼に約束されたこと
彼だけに約束されたことがある
まっすぐに歩くということ
誰しもが人生に、運命に惑わされ、紆余曲折し
壁があれば避け、溝があれば避け
明日への道へと歩をすすめてゆく中で
彼だけは、ただまっすぐ
壁があれば戸を作り、溝があれば橋を架け
彼だけの明日へと命を運んでいった
彼の名はしんや
僕の名はWorldx
彼の戸をくぐらせてもらい、彼の橋を渡らせてもらっている
矮小な、数多の命の群れ
そのまた一つである
かがやく彼の周りを飛び交う、羽虫の一人である
彼のその、生命の灯りを追いかけていたい
彼が何処まで辿りつけるのか、眺めていたい
GWがその意味を成すよう
注意深く、そして大胆に
僕らの二日間が確定した
それは長野へ
一堂に会するのは
僕、さはりん、しんや、ぺす
そして長野に帰省中のつむじまん
その経緯は、そう
いつだって社会という大きな流れに逆らい続けてきた僕ら
もう26歳になるのだから、頑張るのはやめにしないか
誰かの心が、そう呟いた
もう僕らは、あの荒波に逆らう必要はないんだ
GWらしく、旅行なんてしては如何だろうか
いつだったか、そんな話が浮上した
そうして数秒後には、確定していた
いつだって僕らの決断はその身ひとつ、その場で行われてきた
しかし何処かへと旅行を執り行うことが決まっても
何処に行くかは全く決まらない
一向に何処へ旅行すればよいかわからない僕はたまらず
彼に電話した
ツムジマン、今地球でもっとも群馬に近い男
「兄さん・・・ちょっと僕ら4人」
「この抑え難い衝動を、旅行という美辞麗句に包み上げ」
「5月4日と5日という何気ない二日間に花を添えたいのです」
「あなたは今、何処にいるのですか」
「いま、あいにゆきます」
彼は多少驚いたそぶりをみせはしたが、
この手の扱いには慣れているといった様子で
順序だてて、僕からことの経緯を引き出してくれた
すべてを呑み込んだと同時に、彼はこう言った
「あきおみ君、僕は今、長野にいる」
「群馬へと転勤させられた僕が何故と思う気持ちは分かる」
「だが僕は長野にいる、そう、帰省しているんだ」
「もし君たちが本当に長野まで来るというのなら、僕はそれを信じよう」
「宿もとろう」
「どうせ何か見たい物があるとか、行きたい所があるというわけでもないんだろう?」
「適当に見付かった宿をとっておくよ」
彼はこう言って、電話をきり
数分後一通のメールに、答えを込めて
僕に送ってきてくれた
宿、金額、何時に何処へ向かえばいいか
必要なことを全てそのメールにまとめあげ
僕らを導いてくれた
この瞬間、僕らの未来が一つ埋まった、輝きを残して
当日、朝まで仕事をしていたにも関わらず
ぺすはよくやってくれた
考えられる限り、最速のスピードで我が家まで辿りつき
既に待機していた僕とさはりんと合流し、彼を待った
しんやさん、この旅の発端にして、いま地球上でもっとも江頭に近い男
僕らは、早速長野へと旅立った
そして3時間半の運転を終え
何事もなく、たどり着いた
長野の大地へと辿りつき
車の戸をひらき、伸びきった足先が、地につく
誰しもが通るこの一連の動作すら、彼が行えばかくも美しい
僕のようなパパラッチなど意にも介さず、前へと歩を進めた
いやいや、SP超笑顔
後ろのしんやさん、空港で撮られたベッカムと表情が何ら変わりませんよ
ていうかSP超笑顔じゃないですか、どういうフォーメーションですか、無敵の布陣ですか
おしのび旅行中の一流芸能人と超一流無敵のSPみたいな図ができあがってますよ
誰が見たって一般人は思えない視線のそらし方
誰が見たって普通のSPにはみえないカメラ目線
とにかく僕らはホテルに着くなり、長野を堪能すべく動き始めた
フロントで鍵をもらい
おそらく年下かと思われる女性に部屋まで案内してもらいながら
Worldxが血迷い始めた
「お姉さん、僕ら東京からきたんですけど」
彼女は、屈託のない笑顔と、その目に灯りをともして言った
「あ、そうなんですか~」
「何時間くらいかかったんですか?」
「サインいります?」
「え・・・」
「あ、はい・・・」
その目から光が消えた
さはりんさんなんて、道中からホテルまで
「いやー、なにもないっすね」
しか言っていない
部屋へつくと
明らかに名札が読めない
中国人と思われる女性が、僕らに説明をしにやってきた
食事は何時がよいか
風呂はいつから入れる
朝はバイキングであるということ
果たしておそらく彼女にとっては仕事の骨子をなす
一語一句けっして間違えてはならぬ
祖国の家族の、命を賭して臨んでいるお役目なのだろうが
相手が悪かった
彼女の会話を、まるで仔猫をひねりつぶすようにへし折った
「写真お願いできます?」
「ア、ハイ」
「トリマス」
トリマス?
勘違いするな
オレが喰う側で、お前が喰われる側だ
いやー、旅行って、いいですね
普段無料通話が貯まり続けるだけの僕の人生
会話に溢れている
もう僕には木下さんとかずやしか残っていないと思っていた
でも僕にはこうして会話をしてくれる中国人がいる
誰かの優しさと愛が欲しくなったら、ホテルにいけばいいんだ
僕が人生を悔い改めている最中
ぺすの叫び声が聴こえる
僕らを警護していてくれたはずの彼が悲鳴をあげる
その意味の重さを僕らは重々承知していた
どうしたぺす
何故叫んでいる!
いや・・・何故
脱いでいる・・・
彼の狂気の先に、何かがみえた
でたーーーーー
ザシキワラシ
長野こえー
田舎こえーーー
いやいや、彼の発想に恐怖しました
これが噂のザシキワラサーですか
いとをかし
これ以上ない居場所
みつけちゃってるじゃないですか
人生は答えがわからないからおもしろいっていうじゃないですか・・・
みつけるのはやすぎですよ、人生の答え
彼はこの地に来てたどり着いたのです、帰るべき場所へ・・・
こうしてこの旅行の大半は、彼をこの殻からださせ
東京へ連れ帰ることに消費されました
ぺすも常に脱いでいます
夕食時にはまた例の中国人
もはや彼女もタメ語です
マブダチですか
「このヨーグルトいらないんだけどいりますか?」
「イイヨ、イイヨ」
何がいいのかさっぱりわからない
悪いからいいよみたいな意味なのか
とりあえず写真をお願いすることにした
まだトリマスとか言っているので、
今度はお姉さん一人でいいですというと
恥ずかしがっている
「ヒトリ?」
「ヒトリムリ」
頑なに拒否するので、一緒にうつってあげることにした
みんなで写真も撮った
いや、君そんな
チラリズムいらないから
なんですかその絶妙な隠し方は、手馴れすぎですよ
いや、SP顔変わってますから
こうして一夜を過ごした
次の日の朝にはチェックアウトし
受付のお姉さん相手に歴史を繰り返し
イヤ!イヤ!と一人でうつることを頑なに拒む彼女に愛の手を差し伸べ
胸にX Japanと書いてあるTシャツを、完璧に着こなしながら
ギニュー隊長をこえるポーズを編み出す彼を彩る
オブジェクトにと僕らはなった
ホテルを出た僕らは、何か在るだろうという希望すら抱くことなく
その車で山を降りていった
道中、ポニー乗り場と書いてある所を発見し、歩を休めた
なるほど、確かにポニーがいる
お金を払い、乗ることにした
たかがポニー、馬に非ずと馬鹿にしていたものの
なかなかどうして・・・
風格があるではないか
僕もぺすを見つけたので、のることにした
花やしき以来の
なつかしの再会である
しかし長野に希望を抱くのは酷と言うものだろう
僕らは名産や観光地などという甘美な言葉に惑わされることはなく
あくまで僕らのやり方で、長野を愉しんでいた
主に彼だが・・・
こと遊びというジャンルに於いては
僕なんか素人では、とても及ばない想像力の数々である
彼なんかもはや、誰も追いつけない領域で愉しんでいる
彼にかかれば、道路も滑り台も何も変わらない
交差点など我が家のベッドである
いやいや、遊びっていうか・・・
死と隣りあわせというか
死亡順番待ちみたいな感じじゃないですか
思いっきり車きてますけど大丈夫ですか
人は命の散り際を前にして器をはかられるといいますが
彼は笑っていました、まるで他人事のように
僕はこの旅でたくさんのものを得て
決してたどりつけない場所をみせてもらいました
一人の男の、生き様をみせてもらいました
笑えばいいと思うよ
このセリフの意味に、一つ近づけた気がします
完
- Posted by at : 2009.5.6 | Comments [0]
- Category: [Crypin Story]
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