規則正しい、振り子のようなメロディに安心をおぼえる
揺れるバス・・・電車・・・
あるいは心臓の鼓動のように・・・
Worldx
彼は、それに近しいモノを
10年来の親友、しんやに対して感じていた
その友と繰り返す、会話のリズムは、彼にとって心地よかった
彼が何処かで働き始めれば
必ず友に声をかけ、共に働いた
2度、3度、4度、働く場所がかわっても、彼は何度でも友を誘い
繰り返し、繰り返し
交わされるやり取りに確かな友情を感じていた
しかし、いま、友をおくろうと思い立ったあの日から、いま、この瞬間にいたるまで
微塵を疑いを抱いていなかった友情に
目を向けて、気付いた
・・・僕は彼をもっとも身近に感じていながら・・・彼のことを何も知らなかった・・・
箕輪さんと見つめあいながら、
この不可解な状況を得心している彼を眺め
Worldxはそう思うのだった
友はこう言った
「はじめよう、ひつようなものを、もってきた」
この二人が、何を考えているのか
Worldx
彼にはわからなかった
しかし彼にはやらなければならないことがあり
それは彼にしかできなかった
部屋に入り音響の準備、人数の連絡、マイクのセット
つい数時間前まで、自分以外、全ての人々が
この会に招かれるだけのお客だと彼は考えていた
しかし開始1時間前、蓋を開けてみれば、主賓をはじめ
己の納得を現実へと近づけるためか、ぺすがその場にはおり
箕輪さんが本人の意思すら及ばぬところで、本能を行動にうつしており
しんやさんが、ボストンバッグを片手に店前へと訪れ
各々の目的の為に動き出していた
「僕は、僕のやるべきことをやろう」
彼はそう考え、なにかもやもやした、不安と、疑念に区切りをつけ
3人をおいて、準備の為に店へと入った
準備がはじまってしまえば、先ほどまでの疑念がまるで何事でもなかったように
やるべきことが明瞭に感じられるようになり
これからはじまる3時間の為に、確かな階段がみえてくるのだった
時はきた、集合時間、19時
準備を終え、フロントまで顔をだすと皆が集まっていた
しかし時間前には集まっていたはずのあの3人の姿はみえない
「嫌な予感がするんだ・・・早く部屋へ入ろう」
Worldxはそうこぼしながら、皆を部屋へと誘った
音楽と共にグラスを並べ、用意された部屋に、皆一人ずつ腰をかけ
これから、笑いと共にお互いがお互いを思い、楽しみ
しんやさんとの別れを偲ぼうと、心は一つになっていた、はずだった
心なしか、みなの表情に、どこか張り詰めた
緊張の影がみえる
主賓がまだこの場にいないから?
それとも今日、これから起こるであろうことに多少の身じろいを感じているのか
未知との遭遇に、心の構えをとくことができない20名超が、そこにいた
Worldxは、数多の想像を駆け巡らせていたが、
彼らがそのとき抱いていた真実に辿りつくには、
決定的なものが欠けていた
Worldxの口から、あるいはSaharinの口から語られてきた
鎮目裕史の歴史
共に沖縄へ行った者たちだけが知る、鎮目裕史を前にした時の、あの緊張感
彼らの心を訪れていた、緊張の根源はただひとつ
・・・今日こそ・・・鎮目裕史の本気がみれる・・・!
一同は、その必ず訪れる幸福に緊張を感じていたのだった
いつだって彼の傍におり、その奇跡を肌で感じてきた
Worldxには経験できない思いだった
刹那・・・
急に扉があいた
それは部屋の扉か
はたまた奇跡への扉か・・・
航弥は思った
「ついに登場したか・・・?しんやさん・・・」
早稲田は思った
「狙い済ましたようにみんな揃ったときに出てきやがって」
千葉は思った
「カルピス頼めるかな・・・」
扉をあけ、この緊張の海へと歩を進めたのは
箕輪さん、その人だった
手には相変わらずブルーシートを抱えている
30名を収容できる部屋の真ん中まで辿りつくと、
テーブルを蹴飛ばし、シートをおいた
背をむけると、叫び声が聴こえた
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
・・・一体何がおきた・・・
・・・この声は・・・めぐさん・・・?
・・・一体どうした・・・ッハ
顔を上げ、Worldxは気付いた
ぺす・・・!
主賓すらまだ迎えてはいないというのに、飛び交う叫び声
レーザーレーサーにプーさんのショルダーバッグという
とても人類に考えつけるとは思えないセンスで、たしかに侵入してきた
もうおしまいだ・・・後はもう・・・血みどろの争いしか残されていない・・・
それにしてもしんや・・・遅すぎるぞ・・・!
・・・ゾク
・・・この・・・違和感は
Worldxは、およそ尋常ではない、寒気に襲われ、後ろを振り向いた
箕輪さんが吹っ飛ばしたテーブルが無残に・・・いや
・・・ちがう・・・まさか・・・
・・・ば、ばかな・・・
・・・そんなはずはない・・・このパーティーの全てはオレが掌握していたはず・・・
・・・そのオレに理解できないことが、この場で起きるなんて・・・
Worldxの心の声が頭の中を幾度も幾度も響いている、その間に、皆が自然に立ち上がっていた
航弥「こいつぁ・・・ヘヴィすぎるぞ・・・!」
早稲田「そんな・・・地球はどうなってしまうの・・・」
マンソン「エマージェンシーエマージェンシー」
千葉「いや・・・イヤアアアアアアアア!!!」
京大「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「グッドイブニーング」
「レディース エンド ジェントルメン」
「今宵はサイッコウのエンターテイメントを・・・お見せしよう」
・・・とてつもない悪が・・・笑い始めた
「口が裂けるほど、笑わせてやる」
「ヒッハッハッハッハッハッハッハ」
「ハッハアアアアアアアアアアアアアハハハハハハ」
・・・あれ程、大きくみえたぺすが・・・
今夜のすべてをぶち壊してしまうのではないかとすら
かつて疑っていたぺすが、いまとなっては・・・
とても小さく、思えてくる
だって、こんなですもの
Worldx・・・お前の予感は、正しかった
凡てはこの瞬間の為だった
その為に、お前は駆け回っていた
お前の知らぬ間に、巨大な運命の歯車に、組み込まれていたのだ
「オレという希少な歯車によって、動かされる、数多のひとつが、お前なのだ」
目の前の白塗りの漢が、かつてしんやと呼ばれていたソレが、目で彼に語っていた
こうして、Worldxの心は、決壊した
・・・ゴク
・・・これが鎮目裕史の本気・・・
一同は生唾をのみこみ、自らが生成した複雑な感情に圧倒されていた
こうして宴ははじまった
漢は、自由だった
「ヒャアッハーーー!!!」
一人で6人は囲めるであろうテーブルを前にし、並んだ料理を前に、じつに自由であった
心の平穏を失ったWorldxが、弱々しい力で、その場を進行していった
彼が温めてきたこの日のプランは、すべて
あの白い漢の前に、空しく散っていた
しんやさんへの質問タイム
内気な彼のために、皆からの質問を受け付けようと
彼のためを思い企画したそのイベントすらも
いまの彼の前では、実に空しい
思い思いの方法で、感覚で、
過ぎてゆく時を前にして、誰もがその意識の片隅に
しんやさんを添えていた
そんな中、最初に、僅かではあるが、確かな異変に気付いたのは、都博史、彼だった
通称:千葉県民
千葉は、注意深く、場を見守っていた
高校生活7年間という
圧倒的な高学歴・・・!
ゆえに悩まされている
あらゆることを計算してしまうという、その性
一体いま、自分はどういう立ち位置にいればいいのか
誰にフォローをいれ、誰と的確に話せばよいのか
彼は比較的無意識下でそれを行っていたが、それゆえに
その配慮はいつであっても欠かすことはなかった
「サインコサイン僕イケメン」
それが彼の口癖だった
当然、このような狂気を前にしても、その性はかえられるはずもなく・・・
いつものように、場を見渡していると、異変に気付いた
先ほどまで、何が起きたのかはわからないが
ひどく弱々しい生身へと陥りながら、進行をしていたWorldxが・・・
椅子に腰をかけ、下を向き、口をあけ、口からは何かたれている
千葉には一度、Worldx・・・
彼の狂気の片鱗と遭遇したことがあった
かつて彼らが未だ、カラオケでオールなどという若さに任せた一日を過ごしていた頃だった
マイクを片手に声すら出さず、本能に身体を任せたかのような動きで、その時空に風穴をあけていたことを、ふと思い出した
・・・まさか
・・・これは・・・はじまっている・・・
・・・Worldx・・・目覚めてしまったのか・・・
千葉は正しかった
めまぐるしく訪れた理解の外側からの圧力によって
Worldx・・・彼の心のダムは、決壊していた
「おくれええええええええええええ!!!」
Worldxがマイクを片手に叫んだ
一瞬、皆、ことの把握に気を取られ
時がとまったのようだった
Worldxは、考えられる最速のスピードで、何処からともなく
ソレを取り出し、
抵抗という二文字を知らない白い悪魔に装着した
その闇に、乗じる男が一人
Saharin・・・
Worldxと共に、高校生活を歩み
鎮目裕史という平和に過ごしていただけの男を、このような
怪物へと育て上げてしまった責任を、二分する男
その責任と、その自覚が、彼を立たせた
片手には、ジッポ
「こいつに・・・火をつけちまったら・・・」
「オレはもう空手家じゃない・・・」
「そしてオレはもう・・・空手家じゃなくていい・・・」
彼は・・・躊躇なく、白い悪魔を燃やし始めた
漢は・・・笑っていた
未だ発狂から覚めやらぬWorldxが、何処からともなく
この場にもっとも相応しい
黄金の果実を天へと掲げた
バリカン
ただ燃えていくだけだった彼の髪を、新しいステージへと引き上げることが可能な、アイテム
それは、髪が燃えていてもイエスといい続ける究極のイエスマン
白い悪魔
この世でもっとも江頭2:50に近い漢を目の前にしている20名超にとって
空腹に苦しむ少年の前に落ちた
一切れのパン
それと何ら変わらないだけの力と、魅力をもっていた
誰もが、そのバリカンに心を奪われ、手をとり
刈るべきものを、刈りはじめた
男は・・・静かに
優雅に・・・動き出した
彼の名は・・・マンソン
人にギリギリ許されている格好で、佇んでいた
どのくらい強烈かというと
集合写真をとっているはずなのに、主賓にカメラをみさせないくらい、すごい
明らかに、写真を撮られようとしているにも関わらず
その写真を撮られるべき主賓、その人が
撮られながらも見つめざるを得ない、カリスマ
ともかく、彼が動き始めたからには、ただでは終わらない
手馴れた手つきで、バリカンを拾い
人類史上最強のイエスマンの、コメカミに、ただ添えた
突如、震え始めた手が、一気にいった
・・・躊躇がない・・・!
早稲田は、後にそのときのことをこう語っている
「いや、驚きましたよ」
「こう、バリカンを耳にそえてね」
「ちょっと剃るのかと思ったら、ほら、一気に、ッガって」
「しかもその手が震えてるんですよ、ものすごい勢いで・・・」
「私も偏差値65ですからね、バリカンがどれだけ危険かってことくらいわかっています」
「でもあの人は違うんですねぇ・・・」
「憧れちゃいますね、高学歴として」
そうして彼の一刀をはじめに、あれよあれよという間
・・・完成をみる・・・
我々は一体、何を作ろうとしているのか?
・・・とてつもない悪が・・・笑い始めた
これは・・・人なのか・・・?
どうか人類に尊厳を・・・
千葉は憂いていた
この狂気に感化されたのか
この部屋をとりまく圧倒的な熱に冒されたのか
・・・オレが高校生活7年間で学んできたことはなんだったのだろう
・・・こんなの一言たりともかいていなかった
・・・みんなこんな狂気の海に溺れながら、笑っちゃいるが実際のところ何を考えているのだろう
・・・オレはこの中に溶け込めているのだろうか・・・
・・・今のオレなら・・・何か・・・できるかもしれない・・・
千葉は、心の憂いの総てを込めて、前に出ようとした、そのとき
隣の航弥が声をあげた
「そしてお前は考えている」
「『しかし僕に一体何ができるのか』とな」
「これは・・・試練だ・・・」
「過去に打ち勝てという試練と・・・オレは受け取った」
「人の成長は・・・未熟な過去に打ち勝つことだとな・・・」
「え?おまえもそうだろう?都博史」
「航弥・・・航弥・・・お前はまさか・・・」
「過去は・・・バラバラにしてやっても石の下から・・・」
「ミミズのようにはい出てくる・・・」
「驚いたぞ・・・心あたりがまったくないわけだ・・・」
「航弥・・・貴様はッ・・・!」
「オレの事やッ・・・!いつも弱腰のお前が何故前に出ようとしているのか」
「そんなことはどうでもいい・・・」
「重要なのは・・・都博史・・・!」
「お前が、前に出て・・・何をするかだ・・・!」
「ぺすや・・・しんやさんや・・・マンソンさんに続き・・・前に出るからには・・・」
「ちょっとしたギャグの一つですむって事はあるまい?ン?」
「それ以上喋るんじゃあねェー!」
「そうはいかない・・・」
「それ・・・その目の前にある生クリーム」
「何処で手に入れたのか知らないが・・・使える・・・」
「しんやさん・・・!」
「こっちだ・・・!」
「や、やめろ・・・まさかッ!」
「その生クリームに手をかけるんじゃあねぇー!」
「・・・なんとしても・・・なんとしても『希望』だけは守らなければ・・・」
航弥に呼ばれたしんやは、生クリームと狼狽する千葉を眺め、すべてを悟り
やるべきことを、おこなった
千葉はついに、諦めとの同居を決意し、新しい自分を見つけることになった
こうなれば・・・当然・・・
筋肉が・・・黙っているはずがなかった・・・
動き出す、細胞たち・・・
夜はもう、終わりを告げようとしていた
これ以上、この25名から何の可能性も生まれないであろうと誰もが思っていた
充分、堪能した、これでもうおしまいにしよう
もはや誰も、この鎮目裕史が『邪悪』に向かおうとしているのを、止めることはできない
鳴りやまぬ叫び声と、笑い声と、泣き声の、入り混じった部屋から
まるで頼りなく、かぼそくも、命の鼓動と共に在る、あの声が、聴こえ始めるまでは