Black or White #73

話すことがない。退屈な男で申し訳ない。
なので記憶に頼ることにするよ。これは一人の年老いた医者の話。
彼はオレの実家の近くに小さな病院をかまえていて、もちろんオレが
子供の頃は、風邪をひけば彼の病院へと足を運ぶというのが決まりだった。
家から徒歩1分で着く、一見ただの家にしかみえない建物にそこはあった。

おおくの医者がそうであるように、彼はまずオレの様態を眺め、そして薬を処方する。
しかし、何故オレがそんな彼のことを覚えているのか、何もかも忘れてしまっているにも関わらず。
それは彼がつねに、診察後に言うセリフに起因している。

君は風邪を引いているんだ。薬をのんで、よく寝なさい。そしてみかんは食べちゃいけない。

ふむ。なるほど。
寝るのはよい。当然オレは寝るだろう。
薬をのむ、もちろんだ。オレは薬が大好き。
バファリンとご飯で、ランチにしたっていいくらいだ。
だが、なんだ、みかんを食うなっていうのは。

彼は言ったよ。みかんはおいしいよね。おじさんも大好きだよ。でも今は食べちゃ駄目だ。

何を言ってるかわからねーと思うが、オレも何を言われたのかわからなかった。
しかし、幼きオレの心に、彼を疑うという選択しなどあるはずもなく、ただ従う他なかった。
その点、問題なのは、希心会の母上、つまり婆さまが住んでいる伊豆はみかんの産地
当然、ナウシカもみかんを大量生産している。これが意味するところは、もちろん
お察しのとおり、我が家は常にみかんに囲まれていた。

想像できるか?お菓子などかえない貧しい少年が、学校にも行けず家でひたすら
時をすごしているなか、目の前のみかんに手を出すこともできない。どうする?
オレはたべなかった。幼き頃、強さなどまだ何か知らぬガキが、当時はつよさをもっていたのだ。

ある日、婆さまがいつものように、みかんをダンボールで送ってきた。
以前に、その老いた医者が、みかんが好きだと言っていたのを思い出した希心会は
いくつかを、病院へと持って行った。数日後

彼は死んだよ

幼きながら、確信していた。彼は風邪を引いた。そして
みかんを食べてしまったのだと。子供ながらにオレは知っていた。
大人は、子供に何かを言うわりに、自分は守らないということを。

彼は耐えられなかった。そして食べた。
信じられるか?みかんは、人を殺せる。殺せるんだ。
もし君が、死にたい。とおもう時があれば、風邪を引いてみかんを食べることをおすすめする。

ところで、なんとなくモノクロに挑戦してみた。部屋が寒すぎてつらいよ

Maria -Yoyogi Park.

by Worldx | 2.1.2012 | Category: cinematic, the expression of 1000, 人間 | Tags:
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